ITエンジニアにおける資格と年収についての考察

先日、こちらのツイートがバズっていました。

このツイートはそれなりに反響がありましたが、個人的には資格と年収についてよく語られる部分についてあまり納得の行かない意見を聞くことが多く、この機にちょっと記しておこうかなと思います。
※ここでは「エンジニア」の範囲を「ITエンジニア」に絞ってお話をします。

このエントリを書こうと思ったきっかけ

きっかけはyukito ohiraさんのこの記事を見たことでした。

この記事では資格がどう評価されるか、それによってどのように年収に影響するのか、という観点を強めにして書かれています。
その観点では非常に冷静な視点で書かれており、とても参考になります。
ただ、この記事では

ちなみに後述する記事は、「資格が稼げるかどうか」について焦点を絞り、「勉強になる」という一つ目のメリットにはほとんど触れません。

と、学習による影響についてはほぼオミットされています。
しかし個人的には資格がどう評価されるか以上に「資格を取るための学習によって何を学べ、その学んだことによってその後のキャリアにどう影響し、それによってどう年収が上がるのか」という観点が非常に重要で、そこを外すべきではないと考えています。

資格不要論を唱える人も含め「資格を持っていることがどう評価されるか」という観点で語ったものが非常に多い印象があります。
※全くそういう方がいないわけではなく、相対的に少ないなと思っています。

書く人がいないなら自分が書くか、ということで今回書いてみようと思いました。

ITエンジニアにおける資格の種類

大別すると下記の2つです。
※例外はあると思いますが、大雑把な区分なのでご了承ください。

  • IPAの資格
    IPA(情報処理推進機構)が認定する資格。ITパスポートを除き、年に最大2回試験がある。
    今回話題に上がった基本情報技術者や応用情報技術者もここの資格。
    受験料は一律5700円(2021/02/05現在)
    詳細は試験区分一覧を参照
  • ベンダー資格
    ITベンダが認定する民間の資格。
    ベンダごとに様々な資格がある。代表的なのはCisco、AWS、Microsoft、LPIあたりの資格。
    大抵はテストセンターで受験するためテストセンターが空いているタイミングであれば任意の日時で予約して受験ができる。
    受験料は試験によるが、1〜3万程度のものが多く、IPA資格に比べると高額

資格を取る意義

上に貼らせていただいたyukito ohiraさんのnoteでも書かれていますが、ITエンジニアにおいては2021年2月現在、業務独占資格1はありません。
なので、そういった観点だと資格を持っていなくても仕事はできます。
noteに書いていただいていた内容と思い切り被ってしまいますが、主に下記の2つが資格を取る意義に当たると考えています。

  1. 資格を保持していることによって評価を上げる
    これは先のnoteの中心トピックですね。
    直接的なところでは、資格を保持していると手当が出る会社とかもあります2
    案件にアサインされるときには、資格を持ってると少なくともその資格を取得可能な知識を持っていることが保証されるので、複数の候補の中から人を絞り込む時に引っかかりやすくなりますし、SESなんかだと単価に反映されることもあるでしょう。
    ただ、このへんは先のnoteで語られたトピックなのでこっちでは扱いません。
  2. 資格を取得するまでの学習によって知識を習得する
    何故かここについて語られないことが多いですが、これこそが資格を取ることのメリットだと考えています。
    資格は単なる装備ではなく、取得するためには学習をする必要があります。
    学習をすればもちろんそれによって知識が得られます。
    資格はただ取るのではなく、学習した結果得た知識を活用することに意味があります。
    その学習によってその後のキャリアの選択肢が増えたり、年収が上がったりすることは十分に考えられます。

資格の取得がキャリアに与える影響

既に記載しましたが、資格を得るためには学習する必要があります。
資格にも色々ありますが、ここではやり玉にあげられていた基本情報技術者や応用情報技術者を例にあげます。

基本情報技術者や応用情報技術者がキャリアに与える影響

基本情報技術者や応用情報技術者を含む情報処理技術者試験は非常に広範な領域を取り扱います。
大別するとテクノロジ系、マネジメント系、ストラテジ系に分かれるのですが、
基本情報技術者、応用情報技術者ではこれら全てが試験範囲です
高度資格になると、範囲が絞られる代わりにもう少し深く聞かれたり、
資格によっては試験中に論文を書く必要があります3
詳細はIPA公式から試験要綱をご参照ください。
試験要綱・シラバスなど

よく馬鹿にされますが、
テクノロジ系では計算機の基礎理論からコンピュータの仕組みに各技術要素や開発技術、
マネジメント系ではプロジェクトマネジメントにサービスマネジメント、
ストラテジ系ではシステム戦略、(システムに絡む)経営戦略に法務の話まで。
これら全てに触れて5700円で受けることのできる資格なんてそうそうありません。

特にキャリアの浅いうちにITエンジニアが関わることのある領域についての知識に一通り触れておくと、
その後になって初めて触れるのに比べ明らかに理解の早さが変わってきます。
範囲がとても広いのと、
試験では6割取れればいいので全部を完璧に理解して合格することは中々ないでしょうけど、
それでも一度でも「こういう領域があるんだ」と理解してその後のキャリアを過ごすのか否かでの違いは大きいでしょう。

前述の通り範囲が広く、かつ6割取れれば合格ということもあり、
それぞれの領域についてそこまで深いことが聞かれるわけでもありませんし、
あまり理解していない領域があっても合格できてしまいます。
でも、一度学習しておけばどこか頭の中には引っかかっているものですし、
その時はよくわからなくてもどこかで点と点がつながる時が来ます。
それによってその後の成長速度が上がり、
良いキャリアを過ごせればそのことによって年収が上がる可能性は高いでしょう。

なので、学習により、相対的に良いキャリアを過ごせる可能性が高くなるので、結果的に年収向上につながるが自分の意見です。

これがITパスポートのレベルだと、内容が簡単すぎてITエンジニアに求められる知識としてはちょっと足りないでしょう。
もちろん何もわからないところから始めるのであれば第一歩としてそこから始めるのは悪くないです。
学生で情報系でもないけどITエンジニアになりたいとか、バックオフィスの仕事だけどITの基本的なことを学びたいとかであれば。
結局の所誰がどういう目的で学ぶか、です。

少なくとも、初学者や経験の浅いITエンジニアが取得しようとしているのにわざわざ

「価値ない」「意味無い」「履歴書に書いたら失笑もの」「基本用語がわかるくらいにしか見られない」「ただのお飾り」

などと言ってくる人の人間性は疑わしいですし、
そんな人間の意見は今後聞かなくていいです。
それ、あなたの個人的な意見ですよね?
そういう意見を言うなら根拠を述べてください。

その他の資格の影響

その他というと範囲が広すぎますが、資格を効果的に取得したいなら
– その資格を取るための学習で何を得られるか
– その資格を持っていることでどう評価されるか

を意識して取得していくといいです。

自分の場合は直近ではAWSの認定を継続して取っているのと、
あと今年は有意性の期限延長のためにLPICの300を取得したりしました。

AWSの認定に関して言えば、
認定そのものがそれなりに評価されるというのはもちろんのこと、
認定取得のための学習で出題対象になると思われる
各サービスのドキュメントやホワイトペーパーを読んだり、
仕様を把握したりということを必然的に行うため、
実務で使用する機会が少なかったサービスについての理解を深めたり、
ベストプラクティスを学んだりすることができます。
自分が継続的に取得しているのは評価されること以上に学ぶことが多いというのがあります。

一方、LPIC300は別に取らなくても良かったかなと振り返ります。
LPICは300,303,304のいずれかを取得すればLevel3認定されます。
実はLPICの有効期限自体は特にないのですが、
「有意性の期限」という、資格がActiveであるとされ、
再認定が可能な期間が5年間になっています。
文字にすると何が違うんだと思いますが…。
しかし、学ぶ内容的にはOpenLDAPとSambaのコマンドやオプションについてひたすら覚えるだけでかなり苦痛でした。
300を再認定することはないですね…。
この辺の話は過去に書きました。
LPIC 300に合格した

Level1ではLinuxを扱う上での基本的なコマンドや設定、
Level2ではカーネルやファイルシステム等々の基本的なところなど
を学べるのでこれも初期のうちに学んでおくと後に生きます。

意味の薄い資格のとり方

「資格を得るためには学習をする必要があります」と何度も書きました。
その学習によって得られるものにこそ価値があるとも。
言い換えると、学べるものが少なく大して評価もされないような資格をただとっても意味は薄いでしょう。
もちろん、そのことを承知でただ資格を取りたくて取るというのは個人の自由です。
たとえば、AWSを扱う仕事をずっとしていて認定もたくさん持っている自分が
AWSのクラウドプラクティショナー4を今更取得したとしても意味は薄いでしょう5

また、この辺は私見ですが、サーバやネットワーク系よりプログラム言語の資格については資格よりも実務での経験や実際に作ったもの何かを見られる傾向が強いように感じます。

当たり前ですが、資格があれば仕事ができるわけではありません
資格は知識を学んだことの証明であり、それをどう活かすかは自分次第です。

資格不要論に対する反論

余談ですが、資格不要論を唱える人は、資格なんて意味がない、実務経験が重要だ、と大抵仰っています。
実務経験が重要という点には同意しますが、それをもって資格に意味がないとするのは不可解です。
「意味」とはなんでしょうか。
自分の意見では「資格取得のための学習で知識を習得し、それを活かすことに意味がある」なので、資格が不要なんていう意見は大きなお世話です。
もっというと、それを意味あるものにできるのかは自分次第です。
最初から無意味だと断じていたら、そりゃそう考えてる人にとっては無意味でしょうね。

以前は試験の問題を1問抜き取って「こんなこと聞いてもしょうがないしこの資格には意味がない」という論理展開をする方がいたのですが、ただの知識を問う1問を抜き取っただけでそんなことは評価できません。
ITエンジニアなのであれば、きちんとロジックに沿った批判をしてほしいなあと思います。

結論

  • 資格そのものの評価とは別に、資格取得のための学習で学べることがあればその内容によってキャリアが向上年収も上がることもあるよ
  • 資格がどう評価されるかについては意識する必要はあれどそれだけが絶対ではないよ
  • 資格不要論なんか無視していい

ざっくり言うとこの辺が言いたかったことでした。

一つの意見として参考になれば幸いです。


  1. その資格を有する者でなければ携わることを禁じられている業務を、独占的に行うことができる資格。医師、弁護士、税理士、教師などが代表的な例。他にも多数。 ↩︎
  2. 個人的には手当のために資格を取得するのはあまり意味がないと思っているのですが、話がそれるのでここでは深くは書きません。 ↩︎
  3. ちなみに、どの資格でもセキュリティについては必ず聞かれます。 ↩︎
  4. AWSの認定の入門レベル。後からできた。 ↩︎
  5. 他の認定取りきったら徒手空拳で受けて埋めたいなあ、ぐらいには思ってます。 ↩︎